小川進先生から新著を送って頂いた。早速読んだのでメモ。
===小川進、「競争的共総論」、白桃書房、2006年.===
本書は、製品革新プロセスにおける、消費者とメーカーとの、あるいは、小売(コンビニ)と
メーカーとの【競争的共創】という萌芽的な事象に着目している。良品計画、セブンイレブン、
ワールドなど複数の事例の、製品開発の実態、成功要因、効果(実績)等が紹介されている。
【競争的共創】 複数の主体が開発過程で協同し、競争的に
消費者にとっての付加価値を共創していく有様(pp.8)
研究としては、組織論における「知」や組織間関係の議論を基とするイノベーション研究と
いえる。製品革新に貢献する多様な情報・知識は多様な場所で生成される、
例) 技術情報 @メーカー、
商品横断的情報 @流通企業、
製品使用情報 @消費者
とした上で、分析事例は、多様な場所で活動する主体が共同することで、新規性・独自性の
高い製品を生み、高い売上高を達成した事例、と位置づける。
同時に、ラグビー型といわれる日本式の製品開発プロセスが、組織の枠を超え、サプライ
チェーンにおける垂直連携に拡大しつつある、と捉えている。
※ 一連の組織間関係の研究 (竹内・野中、1986 など)
米国式 : リレーアプローチ ≒ モジュール
日本式 : ラグビーアプローチ ≒ インテグラル
こうした事例分析を踏まえ、著者は、消費財市場で競争的共創の重要性が高まっており、
流通企業には「資源吸引」という視点が、メーカーには「複線型開発」という視点が必要と
主張する。地道なインタビューや、売上金額などの数値データに基づく事例分析に裏打ち
されており、説得力のある主張となっている。
ただ、「複線型開発」が大半のメーカーで可能なのかは少し疑問もある。本書で分析している
ワールドは、SPA(製造小売業:Specialty Stores of Private Label Apparel)。
小売の売上げデータを持っているからこそ、期中における商品企画・販売商品を含めた
複線型開発が可能となる。販売実績(POS)データを持たない大半のメーカーでは、
結局、流通の「資源吸引」によって翻弄され、疲弊しがちなのではないかといえる。
とすれば、本書は、淡々と事例分析して提言をまとめているようで、実は、
「これからの時代、消費者と接点を持つコンビニやSPAは強い。が、そうでない
メーカー達よ、どうするんだ!」という製造業、ひいては、モノづくり日本への大きな
警鐘と取れる。強烈なエール、とも取れますが。さて、どちらなのでしょう。
::: 余談? :::
本書でほとんど言及されていない点として、大半の消費財流通に介在する卸企業が
今後どのような役割を果たすかは気になるところ。消費財市場で、大手流通のシェアは、
商材次第だが過半数はいかないはず。この点、卸企業は、モノの流通の表裏で、複数小売
にまたがる情報を集約できる立場にいますから。
::: 余談? :::
一番イイタイコト、もしや、「日本では製品イノベーションは、メーカーだけでなく、
流通企業や消費者巻き込んで進んでるんだぜっ」ということかも?グローバルな先生だけに。
この本、翻訳を想定しているんだろうなぁ・・・文中に”日本”って表現が頻出するもんなぁ・・・
私もこんな本が書けるような研究者になりたい。